“久米島の風”が観客だけでなく、ミュージシャンにとってどれほど特別な時間だったかは、演奏後の彼らの表情を見れば一目瞭然だった。
まず、パーカッショニスト・亀崎ヒロシ。終了後に感想を聞くと、「今年も最高でした」とひとこと。実は、彼の尽力無くして“久米島の風”は実現しないライブであった。初めて比嘉と会った時、シャイな性格の彼の人柄と歌声に惹かれ、懐に入り込む亀崎がいなければ、大阪と久米島という海を渡って結ばれる絆は形成されなかった。リハーサルの時でもメンバーの意見に耳を傾けながら、絶妙な仕切りでバンドとしての一体感を醸成し続けた彼もまた“久米島の風”をこよなく愛する一人であり、島の人々からも愛され続けている。
そして、もう一人のパーカッショニスト・山口亮太。ライブ終了後に開口一番「今年はやばかったです」。目の前で踊る観客に心が煽られ、いつも以上に力が入ったのだ。「こんなに幸せな気持ちを味わえるのは、ミュージシャン冥利に尽きます」と話す彼もまた、久米島とは不思議な縁を持っている。リゾートバイトでこの地を訪れたのを機に“パーカッションで生きる”と決めた彼は、比嘉との出会いを通じて亀崎や中西と知り合い、意気投合。第一回の“久米島の風”からずっと参加してきた山口は、すでに、来年に思いを馳せていた。
そしてもう一人、忘れていけない人物がいる。終始、観客席でとにかく嬉しそうな笑顔だったレゲエバー“SPIRAL”のマスター、森島さんだ。山口がパーカッショニストを目指すきっかけを与えてくれたのが彼。中西や亀崎、比嘉と島ぐくるのメンバーを無意識のうちにつないだのも彼。ミュージシャンには内緒で彼に極秘で取材をした時、こんな言葉をくれた。
「えっちゃん、直樹、亀ちゃん、亮太、島ぐくるのメンバー…彼らが集まったことは奇跡で、僕はみんなの音がとにかく好きなんです。彼らの音楽を一人でも多くの人に聴いて欲しいし、久米島を元気にしてほしい。“そんな大それたつもりではやってないよ”とみんな謙遜すると思いますが、僕は感じるんです。“みんなの音楽には、久米島の未来をつくる力がある”と」
最西端のライブが、これからどんな“SPIRAL”を描いていくのか。もう彼らは、動き出している。