このウェブマガジンでもお伝えしているが、バンド名である“Raft”の由来は“いかだ”。バンドメンバーである藤岡、藤田、小浦、Vahn各々が息を合わせてパドルを漕いで、初めてバンドは前に進む。それができなければ、どれだけ漕いでも立ち往生をするばかり。それどころか、波を受けて後退したり沈没したりする恐れもある。
ツアー初日となった10月3日@PLAY YARD。ここでのライブは、まさに“チグハグなパドル”だった。前回よりも観客の数は圧倒的に多く、彼らのプレイに観入ったり歓喜の声を挙げたりする人もいた。一見、成功にも思えるようなライブだったが、終了後に彼らがそろって見せたのは悔しさをにじませた表情だった。「自身が持つ引き出しの少なさを痛感した」と藤岡。「自分を含めて、視野が狭くなっていたと思う」と藤田。「もっと曲を自分自身のものにしなければ」とVahn。「攻めると決めていたのに、守りに入った自分が情けない」と小浦。ここで挙げた言葉の逆が、ライブが始まる前、各々が自身に課したミッション。つまり、達成には程遠い出来だったのである。特に小浦の表情は明らかに落胆の色が見えており、打ち上げでもほぼ無言。気持ちを整理する方法が見つからず、いつもは手を出さない酒を飲み、酔いつぶれてしまった彼の姿が、いかに今回のライブが納得いかないものだったかを物語っている。
翌日、藤岡、藤田、小浦の3人はホテルで緊急ミーティングを開いた。ライブ会場に移動するタイムリミットが刻々と迫る中、PLAY YARDでの模様を収めた映像を何度も見返しながら、パドルを漕ぐ息が合わない理由を探し続けた。新生Raftは、いきなり迎えたこの正念場をどうやって乗り越えるのか。