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処女航海の収穫。そして、次なる航海へ。

4 Posted by - 2015年9月24日 - REPORT

2015年5月24日〜5月26日、3つのライブハウスでデビューライブツアーを行ったRaft。見ず知らずの地で、彼らを全く知らない観客を前にして、どのような成果を収め、処女航海から帰港したのか。その全容をお伝えしたいと思う。

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2015年5月24日@PLAY YARD

会場に到着した彼らを待っていたのは、予想だにしていなかった状況だった。ステージ上にある設備や楽器が、想定していたクオリティと大きくかけ離れていたのである。特にドラムセットはシンバルにヒビが入っていたり割れていたりしており、小浦の表情がすぐに険しくなった。国が違えば思い通りにいかないことがあるのは当然のこと。しかし、そうは分かっていても、動揺を隠せず、実力を発揮できないままステージを去る日本のミュージシャンもいる。数々の想定外をさらなる原動力にできるかどうか。日本では求められないメンタルの強さも、海外のステージでは成功への重要なファクターであるのだ。

では、Raftはどうだったのか。最初は戸惑いを見せた4人だったが“音が出れば大丈夫。あとは気持ちで勝負だ”と頭を切り替えた。目の前にいるのは、Raftのことを全く知らない観客ばかり。彼らの視線は、ステージではなくサッカーの中継をしていたテレビの画面に向けられていた。この状況もまた、彼らにさらなるモチベーションを与えてくれた。“全員、ステージに釘付けにしてやる”と。

1曲目、2曲目、3曲目…曲が進むにつれて、ステージに目を向ける観客の数が増えていった。中には、ライブの途中で物販コーナーに行き、CDを購入する人もいた。全てが終わった時、ほとんどの観客が彼らに惜しみない拍手を送っていた。それはまさに、自分たちの音楽が言葉や文化の壁を越え、人々の心を動かした瞬間だった。ライブ終了後、「チョンケーオ!(タイ語の“乾杯!”)」という掛け声で始まった打ち上げでは、終始、彼らの笑顔が絶えなかった。

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2015年5月26日@STUDIO LAM

PLAY YARDでのライブは上出来だったが、満足できるものではない。5月25日、さっそく藤岡、小浦、藤田の3人はホテルでミーティングを行った。反省点を挙げ、改善の方向性を探り、各人のタスクに還元する。決して浮き足立っていなかったのは“デビューライブは成功する”というジンクスによるものだと感じていたからだろうか。そういう意味では、STUDIO LAMでのライブこそ、彼らが持つ真のポテンシャルが発揮される場かもしれない。しかも今回は現地のミュージシャンと対バン。観客が持つ音楽に対する感度も高い。所狭しと肩を寄せ合い、ステージに立つRaftに視線を向ける観客はどのようなジャッジを下すのか。

その結果は、アップロードされている動画(2:31〜14:33)をご覧になると一目瞭然だ。各ミュージシャンの表情やアクションを見れば、心から音楽を楽しんでいることが分かる。それを感じ取って高揚する観客がとにかく多い。前述した不安は単なる杞憂に過ぎなかった。

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2015年5月27日@FATTY’S BAR

デビューツアー最終日の舞台となったのは、これまでとは一風変わったステージだった。タイ人に加え、ヨーロッパから観光目的で訪れた人たちもおり、より国際色豊かな観客構成になっていた。そこで彼らが見せたのは、過去2日間とはまた違うステージングだった。“これまで自分たちが積み上げてきた音楽をあえて壊し、予想不可能な局面を楽しもう”そんな挑戦心と遊び心が入り混じった彼らの音楽は、否応なしに観客の心をたかぶらせた。その模様は、動画の14:34〜最後に収められている。「ドイツから来たお客さんに『お前のグルーヴは最高だ!』と言われたのが最高に嬉しかったですね」と、藤岡は当時を振り返る。

2015年5月28日、彼らは日本に帰国した。そして、次に向けて動き出した。そう、この処女航海は、次のプロジェクトに向けた布石なのである。次なる航海は、2015年9月30日〜10月5日。ナットに代わる新たなヴォーカルを迎え、準備は万端だ。