10月1日・2日。新生Raftは、バンコク市内のスタジオで数時間にも及ぶ練習を行った。10月1日は新ヴォーカリスト・Vahnとの初顔合わせ。その歌声を初めて生で聴いた時、藤岡、藤田、小浦は言葉を失うほどの衝撃を受けた。「“今のままでは自分たちが呑まれる”と確信した」と藤田。3人が“このままでは俺らは出汁昆布になるぞ”と危機感を抱くほど、小柄な彼女から発せられる歌声は秀逸だった。藤田が檄を飛ばし、鼓舞し続け、ただならぬ雰囲気のまま初日の練習を終えた。
その夜、彼らはこの衝撃を振り返り、危機感の要因を分析した。小浦はその結論を「今までにない自分を引き出してくれる人と出会えた。おかげで、自身に足りないところがたくさん見つかった。プレイもメンタルも」と話す。他の2人も同感だ。しかし彼らは落ち込むどころか、むしろ感謝しているようだった。もしかしたら、この衝撃と危機感を待ち望んでいたのかもしれない。ミュージシャンとしての階段をもうひとつ上るために。
2日。ここでもVahnは3人を驚かせてみせた。新生Raftが誕生して間もないにもかかわらず、ライブで披露する曲の構成を完全にインプットして、かつ、自身の色を存分に出していたのである。今まで何度もやってきた同じ曲でも、ひとつの出会いで180度変わるもの。しかも、たった1日で。「昨日とは、いや、今までとは全てが違う」と各メンバーは手ごたえをつかんだ。
10月3日・4日のライブでは、今までにない自分を引き出さなければ失敗に終わる。言い換えれば、それができたら新しい自分と出会える。「Raftを結成した意義と価値が、またひとつ見つかった」と藤岡。自身のミュージシャン人生においてひとつのターニングポイントに立った3人は、ライブ当日、会場入りの時刻ギリギリまでホテルに籠り、曲の構成と表現を煮詰め続けた。今までにないプレッシャーと戦い、喜びをかみしめながら。